私が、まだ小さかった頃、この「」が、テレビから流れて聞こえていた時、突然、父が何を思いだしたのか 「おーい、お前だけはにはなるなよー」と、つぶやいたことがあった。
(んー・・・?どういう 意味なんだろう・・・?)と考えていたら、行方不明になって、ずっーと帰って来ない、九才年上の兄のことを話していたのだった。
何があったのか 知らないが、長年勤めていた会社を辞めた兄は、しばらく家でブラブラしていたが、ある日、父にひどく叱られたあと、東京のほうに就職を決めて、急に家を出て行ってしまった。しばらくの間、年賀状が来たりもしたが、それきり「プッツリ」と連絡が途絶えて以来、消息不明のまま、何年も過ぎてしまっていた。
父は「あいつは、もう死んでしまったかも知れんぞ・・・」と、諦めたようにいつも話していた。
祖母も、「こんなに、家族のみんなに心配ば かけて、これ程の親不孝なことはなかぞ!」と、話していた。 当時、猛烈な高度成長時代で、各地で人生に疲れた人たちの蒸発が、流行っていた時代でもあった。 私は幼心に、(浦島太郎にだけはならないように、気を付けないといけないんだな・・・)と、漠然と思っていた。
その時から、「」が、何か重大なメッセージを含んでいる、不思議な物語であることを感じるようになり、その奥義を解いていくきっかけが始まった様な気がする。
父の、「昔話」のとらえかたは、一般的にも、ごく自然に使うのではないかと思うが、だいたいに於いて、あまり、いい意味では使われてはいないようだ。
のことを、「放蕩息子のなれの果て、自業自得の結果だ」と言う人が居るかも知れない。だが、それだけではなく、この裏には、もっと何か大きな秘密が隠されてるように思えてならない。
単なる放蕩三昧の、ぐうたら息子ではなく、真面目で優しい心を持つ、浦島太郎が主人公でもあり、何かどうしても、避けたくても避けて通れない、義理と人情の世界に、やむなく巻き込まれていったようにも思える。
この「昔話」は、将来、若者達が何かのきっかけで、別の世界に魅了され、熱中してるうちに、すっかり親や家族のことを忘れてしまい、犠牲にしてしまうという、大きな危険性が待ち構えていて、それを未然に防ぐために与えられた、警告の物語ではないだろうか・・・。
この物語が、全ての日本人の子供時代に聞かされる童話となって、なぜ、昔から伝わって来ているのだろうか?。 それは将来、やがて何らかの、(巧妙に惑わす存在)が現われる事によって、浦島太郎のような人生をたどる青年たちが、大勢現われる危険性があったからではないだろうか。
その災難に、巻き込まれる危険性と可能性が高い確率で起こる、何らかの歴史的必然性があるからこそ、あらかじめ警告の意味を込めて、純粋で素直な幼い心の時に、その時代に生きる総ての人の潜在意識の中に、与えられて来たのだという気がしてならない。
いちいち、はっきりとは言わなくても、ヒントを与えるだけで「悟れる民族」であることを前提に、全てを「比喩とたとえ話」をもって暗示された、何か大きな「天の意志」があるのではないだろうか・・・?。
・・・・・・・・・・ 省略 ・・・・・・・・・・
の話は、確かに四方を海に囲まれた日本に住む、若者達を連想させる、浦島の、ある一人の真面目な漁師の青年の物語である。 カメを助けた心優しい青年が何故、年老いた母親を一人残したまま、別の世界に連れて行かれなければならなかったのだろうか・・・? 又、気が付いて戻った時には、何故、取り返しがつかない程の時が流れ、「最悪の親不孝者」になってしまうという、悲惨な運命を辿るのだろうか?
これはやがて、きたるべき日本の夜明けの為に、降りかかるであろう日本民族の通るべき、大きな試練でもあり、犠牲の供え物でもある。このことは、これから解説していくにつれて、次第に理解できるようになると思う。
ここまで読んで、(ひょっとして、自分のことを指しているのでは・・・?)と、心当たりのある人には、かなり辛く苦しい内容になるかと思うので、まず、絶望の淵に落ち込まないように、救いの意味を込めて、(最後まで耐え忍ぶ者には、希望が残されている)と、いうことを、前もって示しておきたい。
ここでは、ある特定の人物や組織を一例として述べるが、名指しでは言うことは避けたい。心が素直な人には、それが何を指し、何のことを言ってるか、悟れるように書いている。最後まで、気持ちを静めて、取り乱さずに読んで頂きたい。 では、少しずつこの「の話」を詳しく解説していくことにしよう。
昔、むかーし、ある海辺の小さな村に、「」という漁師の青年がいました。
浦島太郎は、年取ったお母さんといっしょに暮らしていました。毎日、漁に出てはその日とれた魚を、まず始めに年とった母親に食べさせる程、心の優しい母親思いの青年でした。
ある時、近くの海では、魚がさっぱり捕れなくなりました。浦島太郎は、お母さんの為に、危険な沖合いに 舟を出して、漁をしました。波の荒い沖では、他に誰も漁をするものはいませんでした。
ところが、その日は、せっかく朝から船を出したのに、小魚一匹もかかりませんでした。
「困ったなー、おっかさんが、魚を楽しみにして待ってるだろうに・・・」 浦島太郎は、どんなに頑張っても釣れないので、ついに諦めて戻りました。がっくりして、浜辺をぼんやりしながら帰りました。
努力して頑張ってるのに、どうしても仕事がうまくいかない時、誰でも、(この仕事は、果たして自分に合ってるのだろうか・・・?)とか、(自分の人生は、本当にこれでいいのだろうか・・・?)と、いろいろと考えたりすると思う。 だが、自分の道に自信が無くなり、ぼんやりして歩いてると、いたって何か他のものに気を取られて、つまらないものに誘惑されやすいものだ。
すると、海辺で、子供たちが大勢集まって、「わーいー、わーーい!」と騒いでいました。浦島太郎は、(なんだろう・・・?)と、思って行って見ると、一匹の小さな海ガメを囲んで、みんなでよってたかって、いじめているのを見ました。
石をぶつけたり、蹴飛ばしたり、ひっくり返したり、また、棒で叩いたりしているのでした。海ガメは、ひっくり返って、足を「バタバタ」させています。「痛い!、痛いよーう!、お願いですから、助けて下さい!」カメは、涙を流しながら 叫んでいるように見えました。それでも子供たちはやめてくれません。げんこつでぶったり、竹の棒で殴ったりつっついたりしています。
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昔の童話集より |
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日本おとぎ集2
神話・伝説・童話 平凡社 |
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は、そんな様子を見ていて、その「小さなカメ」が、かわいそうになりました。
「こらッ、こらッー、
みんなー、やめなさいッ!。カメさんが、痛がって泣いているじゃないかッ!。悪さはやめろッ。カメを放してやるんだッ」すると、子供らは、「いやだーい!、このカメ、町に持って行ったら高く売れるんだーいッ。誰が放すもーんかーいッ!」
浦島太郎は、(それなら買ってあげよう)と思いましたが、ふところに手を当てて捜しても、わずかなお金も有りませんでした。仕方なく浦島は、自分の着物を脱いで、「カネはないけど、この着物をやろう。カメを私に渡してくれないか?」と、頼んだ。 子供たちは、
「んー、ぼろ着物でも、無いよりはましじゃー」と言って着物を貰うと、すぐにカメを差し出し、放してやりました。子供たちは大喜びで家に帰って行きました。
は、カメを受け取って、すぐに海に放してやりました。「さあ、急いでお帰り!。 二度と丘へは、上がって来るんじゃないぞー!」 カメは、何度も太郎のほうを振り返り、水から頭だけ出して、「ひょこん!」と、お辞儀をしながら沖に向かって泳いで行きました。
浦島太郎は、カメを見送ると、家へ帰っていきました。「おっかさーん。きょうは、一匹も獲れなかったんじゃー。勘弁してくれや。おまけに、帰る途中、いじめられていたカメを助けてあげるために、着物まで取られてしまった・・・」と、謝ると、年取った母は、
、「んー、それはー
良いことをしたねー 、 なーんのなんの!、魚なんて、二、三日食べなくたって、別にいいんじゃよ。平気じゃよー」「おっかさーん、ごめんよ!。でも あしたは、きっとたくさん獲って来るからなー」 浦島太郎も、その母も、小さな動物に、愛情をかける優しい心を持つ、青年と母親の家庭でした。
今でも街頭などで、困っている人を助けてあげようと、「救援カンパ」にお金を入れたり、報われないこの世の矛盾を感じていたりする。とても人のことを心配するどころではないのに、いつも 心の飢えを感じていて、正義感が強く、自分のことを顧みずに、使命感に走ったりする若者は、今の時代でも、けっこうたくさんいるものだ。
あくる日、は、朝早くから起きて、船を出しました。が、この日も、朝から釣り糸を垂れているのに魚一匹もかかりませんでした。それでも、忍耐強く「今日こそは釣って帰らなくては・・・」と、釣り糸を垂れていると、「ピクッ!」と、手ごたえがありました。 浦島太郎は、期待に胸を膨らませて竿を上げて見ると、小さな海ガメがかかってきました。
カメは食べ物にはなりません。「あれー、なーんだカメかー。カメじゃーどうにもならんなー」と、がっかりして放してやりました。そして、しばらく糸を垂れていると、又再びカメがかかってきました。太郎は釣りの邪魔をするこのカメが少し腹立たしくなりました。それでもなお、針からカメをそっと はずして 「今度こそ!」と、釣り糸に集中しました。だが、しばらくすると、三度めも海ガメがかかってきたのです。
家で待ってる母に(魚を食べさせてあげたい・・!)と頑張ってる気持ちを、逆なでするかのように、何度も
何度も 邪魔しては、浦島太郎の漁師として生きる意欲を無くさせるこのカメは 一体、どういう存在なのだろうか?。
三度目に、かかってきたカメを放してやると、きれいな女の声で、
「浦島太郎さん、私の背中に乗りなさい!」
と、声が聞こえて来ました。浦島太郎はびっくりして、あたりを見渡しました。深い 海の上で、他には誰もいるはずはありません。よく見るとさっき放してあげた小さなカメが話していました。
「浦島さん、助けて貰ったご恩返しに、龍宮城にご案内します」
「でもー、人間は
海の中では、息が出来ないから、 行けないよ!」
と、太郎は言いました。「では、この玉を飲めば、海の中でも息ができます」と、カメは一粒の玉を太郎に飲ませました。「どうぞ、私の背中に乗ってください!」「乗れって言ったって、おまえの、そんな小さな背中に乗れるものかー!」
太郎があきれたように言うと「いいから乗りなさい!。」 カメは命令口調で、有無を言わせないかのように促しました。
その言葉に押されるように、は、ためしに、船から足を出して、おそるおそるカメの背中に乗せてみました。すると、太郎の足が甲羅に着いた途端、みるみるカメが大きくなって、を乗せてしまいました。
カメは太郎を乗せて、龍宮城へ向かいました。「これは不思議だ。海の中でも息ができるぞ!」と、太郎はびっくりしました。海の底には、赤やピンクのサンゴが揺れていました。その間を色んな魚が泳いでいました。「何て、きれいなんだろう。まるで 夢を見ているようだ・・・」太郎は海の中があんまりきれいなので、びっくりして、気が遠くなり、何だかいい気持ちになって、ウトウトと眠くなってしまいました。
このカメは、人と会話する事が出来て、真面目に働こうとする人を
よそ見させたり、急に大きくなったり、人を眠くさせたり出来る、魔術的な力を持つ、不思議な存在である。
このカメは一体、何を表わしているのだろうか・・?。 始めは半信半疑の気持ちのだったが、カメの強引な誘いに負けて、仕事場である大切な船の中から足を出して、カメの背中に乗せた途端に、浦島太郎の足場が、またたくまに大きなカメの背中になり、奪うように船から遠ざけられてしまった。
このカメは、仕事や人生に行き詰まりを感じた青年を、手練手管で巧みに誘惑して、取り返しの付かない苦海へ導く、「地獄の案内人」なのだろうか?。
目をさましたら、そこは、海の中の龍宮城の門の前でした。立派な御殿の中に案内されました。まぶしくて、目も開けられないようなきれいな部屋に、美しい乙姫様と、家来の魚たちがずらりと並んで出迎えました。
「浦島太郎さん。ようこそおいでくださいました」どこかで聞いた声だと思ったら、それは、あのカメの声でした。「私は、あの時、あなたに助けて頂いたカメです。
私は、龍宮城から出る時は、他のものに姿を変えなくてはなりません。それで、カメになって、丘に上がって行きました。そうしたら、悪い子供らに捕まって、散々な目に合いました。あの時、あなたに助けて頂かなかったら、あやうく殺されるところでした。助けてくださって、ありがとうございました。ここで、ゆっくり楽しんで下さい。」
乙姫様は優しく、浦島太郎の手を引いて、「助けて頂いたお礼に、海の中のめずらしい処へご案内しましょう。どうか、いつまでも、ここにいてください」と、御殿の中を案内しました。
このカメは、実は乙姫様が丘に上がる時の、別の姿だったのだ。海の中の女王が、海ガメに化けて、丘に上がった時は、まだ小さく力のない存在だったので、子供らに「おもちゃ」にされ、さんざんこずかれて、ひどい目に合ったのだ。
このカメは、この島に住む人間によって、ひどい仕打ちを受け、青春を奪われた過去を背負っているのだろうか?。その恨みをはらす為に、人の良いに巧妙に近づきながら、表面には恩返しを装いながらも、裏ではその恨みを絶対に忘れず、仕返しする気持ちを心に秘めた、不気味で執念深い存在にも見えてくる。
なんと、助けて貰った命の恩人に、青春という貴重な時間を奪って、犠牲と償いを強いる、不幸と後悔への「地獄の道案内人」の役割をするようになる。
(このカメをいじめた子供ら、これを、軍閥を表わしていると仮定しよう・・・?)その軍閥の犯した行為のツケは、結果的に、その後に出会う「お人良しの」に、背負わされていくようになるのだ。
おいしい言葉に惑わされて、足を突っ込んだばっかりに、は 丘の上で本来、やるべき事が有りながら、人生の大半を、別世界の海の中で、無駄に過ごしてしまうことになっていくのだ。
御殿の中は、真珠やサンゴで飾られていて、眩しいくらいでした。乙姫様は、浦島太郎を広間に案内すると、立派な椅子に座らせました。「お腹がお空きでしょう、すぐに食事の用意をさせますからねー」と、優しい声で言いました。
やがて見たこともないような、すばらしいたくさんのご馳走が運ばれてきました。そして、いつの間にか心地よい 音楽が流れて来ました。その音楽に合わせてタイやヒラメたちが舞い踊ります。
ご馳走は、今までに一度だって食べたことのないような、舌にとろけるようなおいしい豪華なご馳走でした。母親思いの太郎は、(ああー、こんなご馳走を、一度、おっかさんにも食べさせてあげたいなー・・・)と、考えていると、今度は、寝る部屋に連れていかれました。
体がもぐりそうなフンワカした布団でした。「お疲れでしょう。どうぞごゆっくりお休み下さい」布団に入ると、すぐ自然に眠ってしまいました。夢も見ないで眠ってしまったのです。 |